R40遠征記 (2015・7・16−19 Vancouver Canada )






 もうあれから一年以上たってしまった。何で今ごろと言うか、もう鮮度落ちなんてものではないだろうと思うけれど、CA小説サマリー同様、まあ、せっかく行ったのだから、記録として残しておこうかと思う。もしかしたら、これがRush最後のツアーかもしれないし、わたしにとって最初で最後の海外遠征かもしれないから。
 ことの始まりは、去年の三月の終わりか四月の初めごろ。Rushが40周年記念ツアーをするという。本当は1974年デビューだし、Neilが加わって今のラインナップになったのも同年だから、本来の40周年は、2014年だ。ただ、彼らはずっと2010年から毎年、Time Machine Tour、Clockwork Angels Tourで二年ずつ、四年連続ツアーをしていたので、さすがに2014年は休みたかったんだろうし、その時点ではそれ以降のことは白紙状態だった、と思う。メンバーのインタビューでも、そんな感じだったし。ただマネージャーは非常にツアーに乗り気だったというが。でもこの時点では私は、きっと40周年ツアーはないんだろうな、と思っていた。R30――30周年をやったのは、Rushの3人、と3を引っ掛けてだっただろうし、実際10年、20年の記念ツアーはやっていないから。が、2015年に入って浮上してきた、ツアー。
「やるんかい、40周年、結局」
 最初はそんな印象だったけれど、さらに話が進んで見えてきた”Last major tour of this magnitude“ 大規模ツアーはこれで最後――Neilが小さなOliviaちゃんと長く離れたくないと言う。「僕が、彼女がいなくて寂しく思うのは我慢できる。でも彼女が、僕がいなくて寂しがるのは我慢できない」
 最初の娘Selenaさんの幼少期、ツアーで忙しくて傍にいてやれなかった、そしてやっと彼女が成長し、バンドの活動も安定して、ともに楽しい時間を持てるようになった頃、彼女は急逝してしまった。同じことは繰り返したくない――その思いがわかるために、他の二人とて反対は出来ない。ことにAlexは二人の孫と一緒にのんびり余生を過ごすのも悪くないな、とかなり乗り気。Alex自身関節炎に、去年潰瘍の手術をしたこともあって、相当健康不安をかかえていることも後押ししたのだろう。Neilも両肩と肘に慢性腱炎をかかえているし、長期のツアーは不安だ、ということなのかなと思う。元気なのはGeddyだけか、という……ある意味、意外な感じがした。ヴォーカリストが一番、職業上潰れるのが早そうな気がしていたから。まあ、それはともかくとして――
「これがラストツアーかもしれない」
 その衝撃はファンたちの間を駆け巡った。いずれは来るとは思ったが、ちょい早くないか。いや、きっと第二レッグが追加されるに違いない。小規模ツアーなら将来あるかもしれない、などとさまざまな噂が飛び交うが、This is it――これで終わり、そう感じる人も多かった。そして私も思っていた。そうか、ラストツアーになるかもしれないのか。とうとう見に行けないまま終わりそうだな。DVDで我慢するしかないか――そしてそう夫に言ったところ、「見に行けばいいじゃないか、これが最後なら」 
 へ?行っていいんですか? 思わずそう問い返した。
「いいんじゃないの?」
 この言葉で、無理と思っていたことが俄然現実味を帯びてきた。早速チケットマスターを検索。トロント――やっぱり、ホームタウンでしょう。最初に見たのはここ。しかし、初日売り切れ。二日目は若干余裕があるものの――六月の半ばか。無理だな――と、諦めざるを得なかった。学期真っ只中。高校生の息子は一人では起きられない。(困った奴だ)彼の通学に支障をきたさないよう、弁当等、いろいろ手間のかかることを高齢の義母に何日も頼むわけにはいかない。きっと大顰蹙だ。そう思い、トロントはあきらめた。アメリカは会場が車移動のことも多く、若干怖いというイメージもあり、やっぱりカナダがいい。公共交通網も整理されているし、ということで日程を見て行く。ん? 7月17日にバンクーバー? 検索してみると、フロアは全滅だが、スタンドは結構余裕がある。シングルで、一階席センターの半ばが一つ空いてる――この時期なら、夏休み間近だから、お弁当はないな。夫に頼んで息子を朝起こしてもらうくらいは出来そうだ。高校の日程表を見てみると、この日は終業式。よし、一日くらいなら何とかなる! それにバンクーバーなら、トロントより飛行機代も安い――迷った末、押してしまった。元々行くなら、一人で行くつもりだった。家族の誰かを引っ張って行くと料金が倍増するし、その余裕はない。リアルで周りにファンはいない。ネットのお知り合いに声をかけるのも、遠慮がある。ちょっと怖いけど、何とかなると信じ、飛行機とホテルを押さえた。

 まあそんなこんなで日は進み、いよいよ出発の日、7月16日が来た。この日、台風が近づいてきていたが、直撃はしない模様。朝から断続的に雨。雨の中カート引っ張って空港行くのは憂鬱だな、と思っていると、夫が午後から休みを取ったから、車で送ってあげるという。ありがとう! でも出発する時には、雨はやんでいた。

 さて、ここからは完全に私のプライベート旅行話になってしまうし、どうでも良いので割愛。ただ一つだけ、バンクーバーへのフライト、窓際を選んで失敗した。私の隣は小さな女の子とお母さんで、ずっとテーブルを倒していたので、トイレ行きづらく、ずっと我慢する羽目になったし。そして体感では朝の四時に、機内食の朝ごはんを食べたのがシュールだった。でも、目的地に近づき、高度が下がるにつれ、雲の間から陸地が見えてきて、海と島が織り成すパノラマが美しかった。あのあたりの島は、あまり人が住んでいるような感じではないが――やがてバンクーバーの市街地が見えてくる。小さく車が走っているのも見えた。窓際の席はトイレには行きづらいが、この景色が見られただけ価値はあったな、と思った。でも帰りはやっぱり、通路側にしてもらおう――
 そしてもう一つ、私は方向音痴だ。つくづくそう痛感した。ホテルの周辺で迷ったから。さらに時差ぼけで、当日もう七時ごろに眠くなり、三時に目が覚めた。でも、ここで起きたらライヴ中に眠くなる危険がある、と意地で寝た。そして翌日、まあでもプチ観光も出来たし、お土産も買ったし、いよいよ会場に向かう。その前に貴重品を部屋の金庫にしまう。帰りが遅くなるので、防犯が心配だったから。

 ホテル前のBurrard Stationから会場前のStadium-Chinatown Stationまで二駅、ちらほらRush Tシャツの人を見る。一緒の電車にいた親子連れは、お父さんの方がRush Tを着ていて、子供は十歳前後、二人でコンサートへ行くようだ。七時前だったが、もう開場しているようなので、中に入る。チケットをバーコードでスキャンするゲートで「One Directionはスタジアムだよ」と係りの人が言っているのを聞いた。同じ日に、お隣のBC Placeで1Dのコンサートがあるようだ。間違って、紛れ込んだか。
 外のマーチャンダイズも結構混んでいたが、中も混んでいる。あとでRBCで買おうかな、と思い、ミネラルウォーターだけ買って、席へ。まだがらがら。しばらく座っていたが、暇なのでトイレと、やっぱり物販を買おうと思い、Tシャツ二枚とパンフを買った。ちなみにこういう場では、金銭感覚狂う。帰ってから夫に、「よくTシャツに五千円出すね」と言われた。
 そして、良くジョークで言われる。Rushのコンサート会場では男トイレは満員で、女トイレはガラガラと。会場には結構女の人も見かけたが、やっぱりトイレはすいていた。本当なのだなぁ。私にはありがたかったが。ちなみにカナダのトイレは、手を拭くのは、ほとんどペーパータオルだった。日本だとジェットドライが多いけど。
 席に戻った時には七時半を過ぎていて、席も徐々に埋まりだしている。会場にかかっている音楽はNeilが選んでいるらしいが、知っている曲はKansasのCarry on wayward sonしかなかった。YesとかPink Floydがかかってるらしいけれど、私、プログレ疎いからなぁ。
 八時ごろにはかなり席が埋まってきて、私の両隣も埋まった。RushのVancouver公演はよくUpper Bowlがカーテンオフになるらしいけれど、今日は結構入っている。このツアー中、ソールドになっていない、いくつかの会場の一つであり、埋まりが最も悪いところの一つとされているが、九割くらい? Vancouverは決してRushにとっては強い地盤じゃないらしいから、ここまで埋まれば上出来だと思う。八時を過ぎる頃から、BGM曲が終わるたびに歓声が上がる。いつ始まるか、秒読み状態なのだろう。会場のテンションがだんだんあがって行くのが感じられる。

 そしてついに客電が落ちて、オープニングビデオが始まった。大歓声。都市ごとに変わる最後のシーンを撮ろうとスマホを構えたが、焦点を絞りきれないうちに終わってしまった。しかも見ていない。なんて書いてあったんだ?!(あとからTRFで確認したところではNo man is an islandらしい。イミフ。まあ、Vancouverは島が多いようだけれど)と言っている間に、一曲目スタート。歓声が高くなる。The Anarchist。CAの中でも好きな曲だけど、いきなりこれでオープニングって、コアファンしか知らないだろうな、と思いつつ、ものすごい音圧に圧倒される。バスドラとベースの低音が胸に響く。いや、物理的に。不整脈の気分。ん、しかしGeddyってこんな声だったかな――なんか生だと、声の質が変わって聞こえる。ある種の周波数帯がブーストしているような。ちょっと違和感かな。でもあとでYoutubeのビデオを見たら、普段と変わらなかった。不思議。音楽耳栓をつけているせいだろうか。
 一曲目終了後、一瞬の間を置いて、二曲目へ。ん? Headlong Flight?! ってことは、あれが来るのか? まさかVancouverで!? あ、でもBen Minkはここ住みだったような――そのためかな。Clockwork Angelsも聞きたかったけれど、仕方ない。レア曲が聞けるのだから、我慢しよう。Far Cry――この曲も好きだ。そして生で見たパイロ爆発は予想以上の迫力だった。The Main Monkey Business――ちょっとインスト曲で、流れが落ち着いた感じ。ライトがきれい。人の流れは絶えない。ビール買いに行ったりトイレ行ったり。まあ、話には聞いていたし、Periscopeでも見たから、今さら驚かないけれど、邪魔だ。
 One Little Victory――ドラゴンちゃーん! 生で見たのは、初めてだよ〜。この曲もパイロがあり、本物の火柱が上がる。迫力。Animate――あー、この曲も好き。最後の文字点滅が盛り上がる。ライトは本当に、すごくきれいだなぁ、どの曲も。Roll the Bones――観客受けは今までの曲よりかなり良い。有名人参加のRapが最高だ。そして一気にDistant Early Warningへと戻る。今回のコンセプトは最新アルバムから逆時系列でデビューアルバムに戻る。第一セットは最新作Clockwork AngelsからSignalsまでの11枚(Feedbackを入れると12枚か)をカバーするから、飛ばされるアルバムが在るのは仕方がないけれど。DEWは三十年前の武道館でも聞いているね。もう記憶はかなりかすんでいるけれど。
 そして、来たー! Losing It――Toronto、Newark、New Yorkにつづいて四回目の演奏。Ben Minkは二回目。隣の女の人はその間にビール買いに行ったけれど、絶対彼女はハードコアではないね。でも周りは結構狂喜していました。なんかすごく――切なくて美しかったです。ヴァイオリン、トロントより激しかった。Newark、New YorkのJonathan Dinklageに刺激されたかな。1stセット最後はSubdivisions――おー、結構立ってる。うちのセクションも。やっぱりこの曲、定番だね。そしてインターミッションへ。私はトイレに行き、残ったミネラルウォーターを捨て、席に戻った。相変わらずBGMは流れ続け、人の波は動き続けている。スクリーンはR40ロゴのまま、しばらく――

 だいぶ人が戻ってきたころ、画面がワンちゃんになった。おお、いよいよ第二部が始まるようだ。Intermissionビデオが流れ始めて、再び歓声が上がる。このビデオ、今までのやつのアウトテイク(DVDのおまけでほとんど見ているが)を編集して作っているみたいだけれど、結構面白い。笑っている人も多くいた。
 そしてSouthParkのTom Sawyerイントロビデオが流れて、同曲で第二部スタート。おー、周りが立ち上がった。私も立つぞ! さすがに代表曲だけあって、大盛り上がりだね。 一緒に歌っている人も多い。そしてYYZ。この日はCセットだから。いや、CAの変わりにLosing itが入っているからGかな。C´と言ってもいいかもしれないけれど。中間部のレーザーが圧巻。天井にずっと広がって、手を伸ばせば触れそうな感じ。
 次はThe Spirit of Radio――ここまでの三曲の盛り上がり、すごいな。絶頂期の代表曲だしね。下手をするとこの会場に来てる人の中には、Tom SawyerとこのTSORしか知らない人も、わりといるのかもしれない(汗。もちろん、一緒に手を叩く。二番はGeddyにあわせてHappy Handをやった。そしてお約束のConcert Hall!も。いや〜やっぱり盛り上がるわ、この曲は。ライトもものすごく派手できれい。曲に合わせて点滅している。こういう演出、すごく多い感じ。演奏とライトが完全シンクロしている。
 Natural Scienceになると、出だしが静かなせいもあり、徐々にみんな座りだす。仕方がないから座る。前に一人だけ、ずっと立っている人がいるが、周りが座っている中だと、視界をさえぎって邪魔かもしれない。その根性には敬服するが。私はつい回りに合わせてしまう。まあ、座っていてものれるし、私くらいの年になると、ずっと立ちっぱなしはきついというものある。フロアはほぼずっと総立ち状態で(あー、まあ八割くらいは)、一階席もサイドの方は結構立っているんだけれど、中央近くのセクションはほぼみんな座っている。上は知らない。暗くて見えないし。ちなみに私の席からはメンバーは数センチ。様子はスクリーンでしか見えない。やっぱりオペラグラス、持ってくればよかったなあ。でもライトショウを堪能することは出来て、よかった。それにNatural Science、生で聞くことが出来て感激。曲の起伏や進行が圧巻だ。
 そしてJacob’s Ladder――この曲もライトとレーザーはすごくきれい。なんとなくアンビエントな環境ミュージック的な感じがするんだけれど、変拍子全開で、しかもきれいにあわせるのは結構大変なんじゃないかな、という感じだ。でもすごく調和して聞こえる。Fan Favorite――ファンたちに人気はあるが、まだ演奏していない曲の最後の砦がこのJLとLIだった。それをこのツアーでやったということは、やっぱり意味がありそうだ。
 それからHemisphere Preludeへと続く。キーが一音下がっているのは、歌いやすいように、ということなのだろう。Counterpartsツアーでやった時には、かなり悲惨なことになっていたし。(いや、がんばってはいたと思うけれど)しかし、最初Tulsaのブートで聞いたときには、全音下げがどことなくかみ合わなく響いたが、今はすっかり調和して聞こえる。やっぱりHemisphereだ。ヴォーカルも最後をフェイクした以外、ほぼオリジナルメロディーだ。全音下がっているとは言え、まだ結構高いキーだが、がんばっているなぁ。
 その後はCygnus X-1――これはさすがにインストだけだけれど、Neilのドラムソロを挟んで――このドラムソロも本当に素晴らしくて、『まだまだ全然行けるよ! 全開じゃん!』という感じなのだけれど――最後のパートも演奏する。ここのライトとストロボ、演奏とのシンクロぶりがやばい。超圧巻! で、Closer to the Heart、もちろん歌いましたとも。武道館以来だなぁ。もう一度一緒に歌える時が来るとは。幸せ。会場も結構歌っていました。この曲も代表曲だしね。そしてXanadu。フルヴァージョンのXanadu。AlexとGeddyはダブルネックで登場。Exit Stage Leftを思い出す。あれから三十数年がたっているけれど、演奏の質が変わらないのはすごいな。
 そして2112。チャララララ、ヘイ!はもちろん、お約束。これもやりたかった。回りもみんなやっていた、当然。このあたりでお隣さん退場。なんでこの盛り上がってる最中に席を立つかな。帰ってくるのか戻ってくるのかわからないので、移動はしなかったが。Presentationが入って、ちょっと長めのヴァージョン。で、Grand Finaleで本編終了。ふーっと大きなため息が出た。

 余韻に浸るまもなく、アンコールが始まる。Eugine Leveyという人のバンド紹介、これはCOS当時のバンド紹介、と言う感じだけれど、そのあと幕が再び上がる。ステージのバックラインは最新からずっと時代を戻って、その当時のものが再現されているのだが、この時にはアンプもすごく少なくなっていて、ライトも白一色のシンプルなものになっていた。Lakeside Park〜Anthemと続く。まあ、さすがにAnthemは元のメロディ、無理か。二十数年以上前のRTBツアーでもダメだったからなぁ。LPはわりとがんばっていたが。Alex、ギター弾きまくり。そうだ、この頃は本当にギターバンドだった。関節炎というのが信じられないくらい、すごい。一部、二部通して一、二回「おっと!」という感じのミスはあったものの、まあ、それはいつものAlexクオリティだから。Alexはたぶん一番過小評価されているギタリストの一人だと思う。それは他の二人も認めている。「Alexは天才だ」と。
 次のWhat's You’re Doingになると、椅子の上にアンプ。背景は高校の体育館。そしてミラーボールが。AlexがGeddyのところに行って、歌の合間になんかマイクに向かってしゃべっている。聞き取れないが。そして変な顔をして見せたりするので、Geddyが笑ってしまって、途中一小節くらい、歌えなくなっていた。うけた。なんか和んだ。Alex、本領発揮だね。実際Alex、二部の途中でNeilのところにもちょっかいかけに行って、ドラムスティックでお尻を叩かれたらしい。私のところからは見えなかったが、フロア前列の人が後でTRFにそう書き込んでいた。最高だわ。見たかったなぁ。
 そしてWorking Man――この曲も代表曲だけに、受けは相当に良い。二番からミラーボールに加えて、スパイダーライトが稼動してた。最後に再びライトショウも本領発揮。Alexのギターソロが圧巻。弾きまくり。本当にすごい。他の二人の弾きまくり叩きまくりで、Freewillの中間セクションみたいだった。もちろん会場も大盛り上がり。そしてGarden Road のリフで終了。隣の人はとうとう戻ってこなかった。メンバー達がステージから去ると、観客達も帰りだす。私は通路手前に移動しながら、終わりのビデオを見ていた。半分くらいはやっぱり同じようにしている。意味深なビデオだ。AlexのFxxK You Puppet!は面白いけれど。

 終わった。終わってしまった。三時間たっていたなんて思えない。あっという間だった。武道館の時と同じだ。いろいろなことを咀嚼するまもなく、半分ポーっとしているうちに、飛び去っていった。そんな感じだ。あまりにも早く流れすぎて行く――でもとりあえず、見ることが出来た。体験することが出来た。それに感謝したい。会場の外へ出たら、すごい人並み。帽子を持ったホームレスの人たちが何人か立っていた。ごめんね、何かあげても良かったんだけれど、私もぽーっとしてたから。駅の入り口に、大勢の人がつかえていて、なかなか入れない。そうだ、ワンダイ組もいるしね。あっちはもう少し終わりが早かったかもしれないが――やっと入って、ホームに下りる。反対側へ行く人のほうが、1:3くらいの割合で多い。でも駅を出るまで、ずっとまわりに何人か人がいた。そしてホテルの部屋にたどり着く。十二時前か。夕食は食べてないけれど、それほどお腹もすいていないし、今食べてもな――パンフをボーっと眺めたあと、寝た。思考力はない。しばらくは目がさえていたけれど、わりとすぐに眠れたようだ。
 
 三日目――まあ、あまり観光するまもなく帰国となったけれど、でもこれだけは書いておきたい。本当はTorontoへ行きたかった。Vancouverを選んだのは時期の問題だけに過ぎない。でも、この街のことを調べて、そしてそこに三日滞在して、私はこの街にも愛着を感じるようになった。また来たい。そして今度はもっとじっくり見たい。ライヴを絡めることは出来ないかもしれないけれど――そう、あまりにも早く流れすぎてしまったから、またもう一度見たい。今度はじっくり――コンサートが終わったあと、そう思ったが、すぐに「いや、たぶんこれが最後のツアーなんだな。次はないんだ、きっと」という事実にぶつかると、急激に悲しさを感じた。でもまあ、観光自体は次がある、かな。今度はTorontoへも行きたいな。
 日本に帰った日は、奇しくも私の誕生日だった。(何回目かは、絶対内緒) でも時差の関係で、半日もなかった。でも家に帰ったら、夫がケーキを買ってくれていた。ありがとう! 半日だけの誕生日だったけれど、忘れらない誕生日になったよ。そして、かなわないと思っていた夢、「もう一度Rushを見たい。解散する前に」それが現実になって、本当に嬉しい。実現できたことに感謝する。ことに夫に! ありがとう! 次はきっとないのが悲しいけれど、誰かが言っていた。「その思い出を持てたことに感謝するべきだ。次がないことを悲しむより」そうだね、きっと。

 The future disappears into memory?
 With only a moment between?
 Forever dwells in that moment?
 Hope is what remains to be seen

  未来は記憶の中へと消えていき
  その間に瞬間を閉じ込める
  その瞬間の中に永遠が宿り
  希望はずっと輝き続ける

 そしてLakeside Parkの歌われなかった歌詞――
 Though it's just a memory but some memories last forever
 それは思い出に過ぎないけれど、永遠に消えない思い出もある――

 8月1日のLA公演は、リアルタイムでペリスコープで見て、最後に三人が手をつないで前に出てきたところで、涙が出た。そのあと、ファンサイトでも、「これで終わり?」「いや、そんなの信じない」「大規模ツアーをやらないだけで、単発はあるかもしれない。Alexが言っていたように」と、賑やかだったが、メンバーの口からは決定的な言葉は出なかった。でもその後のNeilのブログでは、「道路を走りながら、これでもうツアー中にバイク旅行するのは終わりか、と思った」とか「オリヴィアが友達に、僕のことをこう紹介した。『わたしのパパ。引退したドラマー』と」――そんなような文が散見され、そしてたぶんこの人インサイダー、と思えるThe Rush Forumのある投稿者もくりかえし、「Neilにはもう戻る意志はない」と言っていた。LA公演のあと、クルー達に「思い出をありがとう」と刻んだ時計を贈ったと言うし――
 ファンサイトでも、悲観派の論調はこんな感じ。
「Rushのツアーはプロダクションが大きいから、単発では元が取れない。それに彼らは完全主義者だから、リハーサルに何週間もかける人たちだ。プロダクションを小さくして、たいして利益も上がらない中で、数回のショウに数週間も労力を費やすようなことは、普通やらないだろう」
「アルバムも、いまやそれで利益を出すほどには売り上げは出ない。一昔前と違って、今はツアーで稼ぐ時代だ。何ヶ月も、儲からないことに精を出すほど、彼らはお人よしではないはずだ」
 楽観主義者たちの反論
「でも、彼らはそれでもやってくれるかもしれない。Neilだって気が変わるかもしれないじゃないか」
「いっそのこと、Neilじゃなくて他のドラマーとやったら。それでRushとは呼んでほしくはないけれど」
 Anything can happen――



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